デザイン思考のユーザーリサーチで「ユーザーの本音」を引き出す技術:表面的な意見から深い洞察へ導く質問と姿勢
デザイン思考を実践する上で、ユーザーの共感フェーズは非常に重要です。しかし、ユーザーインタビューや観察といったリサーチを通じて、表面的な意見や行動は把握できても、「真のニーズ」や「潜在的な課題」、さらには「ユーザーの本音」まで深く掘り下げることが難しいと感じる企画担当者の方は少なくありません。
本記事では、デザイン思考におけるユーザーリサーチでユーザーの本音を引き出し、事業に繋がる深い洞察を得るための具体的な技術とアプローチについて解説します。
ユーザーリサーチで本音を引き出せない根本的な問題とその影響
多くの企画担当者がユーザーリサーチで直面する課題は、「ユーザーが語る言葉」と「ユーザーが本当に感じていること」の間にギャップがあることです。ユーザーは、自分の行動や感情を正確に言語化することに慣れていなかったり、社会的な期待や建前を優先して発言したりすることがあります。
このギャップを埋められないままでリサーチを進めると、以下のような問題が発生します。
- 表層的な課題設定に留まる: ユーザーの表面的な不満や要望に囚われ、根本的な原因や潜在的なニーズを見落としてしまいます。
- 的外れなアイデア創出: 真のニーズに基づかないアイデアは、ユーザーに響かず、ビジネス的な価値も生まれにくくなります。
- プロダクト開発の失敗: 時間とコストをかけて開発したサービスやプロダクトが、最終的にユーザーに利用されない、あるいは期待された価値を提供できない結果に繋がりかねません。
これらの問題を回避し、デザイン思考の価値を最大限に引き出すためには、ユーザーの本音を深く理解する能力が不可欠です。
本音を引き出すための具体的なアプローチと実践技術
ユーザーの本音を引き出すためには、単に質問を投げかけるだけでなく、信頼関係の構築から質問の質、そして観察力に至るまで、多角的なアプローチが必要です。
1. 信頼関係(ラポール)の構築
ユーザーが安心して本音を語れる環境を作ることが第一歩です。
- アイスブレイクと共感の姿勢: インタビューの冒頭で、雑談を交えたり、共通の話題を見つけたりすることで、緊張をほぐし、親近感を醸成します。ユーザーの体験や感情に対して、積極的に共感を示す姿勢が重要です。
- 非言語コミュニケーション: 穏やかな表情、適度なアイコンタクト、うなずきといった非言語的な合図を通じて、傾聴の姿勢を示します。ユーザーが話しやすい雰囲気を作ることを意識してください。
- 安心感の提供: 「正解を求めているわけではない」「あなたの正直な意見が知りたい」といったメッセージを伝え、評価されていると感じさせないように配慮します。
2. 深掘りの質問技術
効果的な質問は、ユーザーの思考や感情の奥深くにアクセスするための鍵となります。
- オープンエンド質問の活用: 「はい」「いいえ」で答えられるクローズドエンド質問だけでなく、「なぜそう思いましたか?」「具体的にどのような状況でしたか?」「その時、どのように感じましたか?」といったオープンエンド質問を積極的に使用し、ユーザーが自由に語れる余地を作ります。
- 「なぜ」「どのように」の繰り返し: ユーザーの回答に対して「なぜそうするのですか?」「それをすることで、どのように感じますか?」と繰り返し問いかけることで、行動の背景にある動機や感情、思考を深掘りします。5回の「なぜ」を繰り返す「5 Whys」のアプローチも有効です。
- 具体的な行動と経験の質問: 「普段どのように過ごしていますか?」「最後にその製品を使ったのはいつでしたか?」「その時、何が起こりましたか?」のように、抽象的な意見ではなく、具体的な過去の行動や経験を尋ねることで、客観的な事実に基づいた情報を引き出します。
- 感情に焦点を当てる質問: 「その時、どのような気持ちでしたか?」「何が一番嬉しかったですか?」「何に困っていましたか?」など、感情に直接訴えかける質問は、表面的な意見の裏に隠された本音を顕在化させやすいです。
3. 鋭い観察と傾聴
言葉にならない情報から本音を読み解く能力も重要です。
- アクティブリスニング: ユーザーの発言をただ聞くのではなく、内容を要約して確認したり、「〇〇ということですね?」と自分の言葉で反復したりすることで、理解を深めるとともに、ユーザーに「聞いてもらえている」という安心感を与えます。
- 非言語情報の観察: ユーザーの表情、身振り手振り、声のトーン、沈黙といった非言語的なサインに注意を払います。言葉と非言語情報が矛盾する場合には、後者に本音が隠されている可能性があります。
- 環境と行動の観察: インタビューを行う場所や、ユーザーが日常でどのように行動しているかを観察するエスノグラフィ的なアプローチも、言葉だけでは得られない深い洞察をもたらします。
4. 多角的なリサーチ手法の併用
単一のリサーチ手法に固執せず、複数の手法を組み合わせることで、より多角的かつ深い洞察を得られます。
- コンテキストインタビュー: ユーザーの実際の使用環境や生活環境の中でインタビューを行うことで、よりリアルな行動や課題を引き出します。
- プロトタイプを用いた対話: 「Show, Don't Tell(見せて、語らせる)」のアプローチで、プロトタイプを提示し、それに対するユーザーの反応や具体的なフィードードバックを得ます。これにより、言葉だけでは表現しにくい潜在的なニーズや改善点が見えてきます。
- ジャーニーマップやペルソナ作成への活用: リサーチで得られた本音や洞察を、ユーザーの行動や思考を可視化するジャーニーマップや、具体的なユーザー像を定義するペルソナ作成に反映させ、チーム全体の共通理解を深めます。
陥りがちな落とし穴とその回避策
本音を引き出すためのリサーチには、いくつか陥りやすい落とし穴があります。
- インタビュアーの先入観や仮説による誘導: 自分の仮説を肯定するような質問をしてしまったり、ユーザーの発言を都合の良いように解釈したりすることがあります。
- 回避策: インタビュー前に仮説を明確にしつつも、インタビュー中は「仮説検証」ではなく「ユーザー理解」に徹することを意識します。複数人でのインタビューや、記録の客観的な分析を通じて、主観を排除する努力が重要です。
- 質問の準備不足: インタビューの目的が不明確だったり、質問リストが画一的だったりすると、深掘りが難しくなります。
- 回避策: インタビューの前に、ターゲットとなるユーザー像、インタビューで明らかにしたい仮説や疑問点を明確にし、それらに基づいた具体的な質問リストを準備します。ただし、リストに固執しすぎず、ユーザーの発言に応じて柔軟に質問を変更する準備も必要です。
- 記録の不備と分析の甘さ: インタビュー中に十分な記録が取れていなかったり、記録を客観的に分析できなかったりすると、重要な洞察を見逃す可能性があります。
- 回避策: 音声録音や動画録画の許可を取り、議事録担当を置くなど、記録体制を整えます。記録された情報をもとに、複数人でキーワードの抽出、共通点の発見、異なる意見の比較といった分析を行い、本音の根拠となるパターンを特定します。
まとめ:実践と継続で本音を捉える力を養う
デザイン思考におけるユーザーリサーチで本音を引き出すことは、一朝一夕で身につくものではありません。しかし、上記で解説した信頼関係の構築、質問技術の向上、鋭い観察と傾聴、そして多角的な手法の活用を意識的に実践し、経験を重ねることで、その精度は着実に高まります。
ぜひ、次回のユーザーリサーチから、本記事で紹介したアプローチを取り入れてみてください。そして、得られた深い洞察を基に、ユーザーに真に価値あるプロダクトやサービスを創造する一助としていただければ幸いです。